牛から生まれる肉、そして堆肥から生まれる野菜、その合わせ技

牛飼い、肉切り、料理人、3人の牛と肉のプロを先生に迎えて開催する『うしぼく學校』。昨今のコロナ禍の影響を受け、なかなか開催できずにいましたが、2020年11月3日(火・祝)に、神戸牛牧場(以下、うしぼく)としては初めてのオンライン生配信での開催を決行。普段から、うしぼくで育てている六甲牛を薪焼きで提供しているリストランテerreに集まり、 第二回『うしぼく學校-六甲牛のおいしい肉の切り方食べ方、野菜との合わせ方。-』を開催しました。当日はリアルタイムでオンライン配信を見てくれたたくさんの方の応援のおかげで、テンション高めで幕を開けることができました。

 

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「うしぼく學校、はじまるよ〜!」
という全員の大きなかけ声のもと、うしぼく學校がスタート。
うしぼく學校

まずは、『牛飼いトーク』!
担当は、牛飼いの斎藤さんと秋山さん。

斎藤さんは、副場長として牧場全体の管理と⽜治療を担当しており、その歴24年の頼れる牛飼い。当日はいつでも走れるようなランニングウェアで登場してくれました。実は斎藤さん、フルマラソンでは3時間台で完走してしまうほどの体力の持ち主。ランチタイムでは、昼食をとるよりも走ることを優先してしまうほど体を鍛えることに余念がないそう。体は鍛えぬかれていますが朗らかな雰囲気をあわせもち、みんなの頼れる大きな存在。当日はびっしり書かれたメモを持参して登場する繊細さもあわせもつ愛すべき斎藤さんです。
そして、秋山さん。牛たちの牧草や飼料などの餌係として活躍している秋山さんは、うしぼく歴3年。うしぼくのなかでどんな存在か?と尋ねると「BBQ担当ですね」と、答えてくれたムードメーカー。大きな声で周囲を笑わせてくれるサービス精神はぴかいち。他業種からこの世界に飛び込んできた秋山さんですが、その気持ち良い明るさで、うしぼくのなかの盛り上げ隊長のような存在です。

まずは、昭和43年に生まれたうしぼくの紹介から。現在4,500頭近くの牛たちが都心部から車で30分ほどの場所で育てられていることを教えてくれました。

そして、オーストラリア生まれのアンガス種と日本生まれの黒毛和種をかけあわせた六甲牛のことも。六甲牛は、オーストラリアという広大な大地で群れで暮らしていたため、最初は人間に強い警戒心をもって、うしぼくにやってきます。荒々しい性格だから捕まえるのは命がけ。だんだんうしぼくでのんびり過ごすうちに穏やかになってくるんだそうです。

続いて堆肥のお話。牛たちは当然、うんちをします。それを牧場内にある堆肥舎で発酵堆肥に変えています。堆肥舎はとても大きく、オリンピックの国立競技場のフィールドくらいの広さだそう。そこで5ヶ月程度(季節によってはそれ以上)の時間をかけて、毎日大きなトラックで堆肥の切り返しを行い空気を循環させて良質な堆肥をつくっているのです。

牛たちの堆肥は、鶏や豚の堆肥よりも栄養価が高すぎず、野菜を育てやすいといいます。どの野菜にも使い勝手がよいうえに、発酵させる期間が長くよく乾燥しているので、土のうえにかけるだえで土壌が改良されていくのだと、うしぼく堆肥をつかっている農家さんが教えてくれとそうです。

うしぼくでは、年間1万トンもの堆肥をつくっています。
そこで突然秋山さんから「1万トンって、どんなものでしょう」と投げかけが。1万トンが想像つきにくいのではと、いろんな例えを考えてきてくれた秋山さん。

・シロナガスくじら、100匹分。
・25メートルのプールなら、33杯分。
・ヒトで言うならば3,400万人分のうんち。
日本人口の1/3くらいの量のうんちが堆肥になっている。

分かりにくいのか、分かりにくいのか。けれど、会場は盛り上がります。
うしぼく堆肥は、うしぼくのある神戸市西区の農家さんを中心に使われているため、土を育み多くの野菜を育てるお手伝いをしています。

 

続いては『肉切りトーク』!
牛飼いおふたりから、バトンが渡されたのは、肉切職人柿本さん。

この道30年以上の肉切り職人であり、マチマルシェ御影店(うしぼく直営精肉店)の店長でもある柿本さん。いつも、背筋がピンと伸びていて、大きくよく通る気持ち良い声でお話をされます。ユニフォームはいつもピンとひとつのしわもなく手入れされていて普段から丁寧な仕事をしていることが伺えます。けれど、秋山さんに劣らずのムードメーカーでもある気さくな性格。今日はいつも使っている包丁を持参してきてくれました。

柿本さんのマチマルシェ御影は、肉のショーケース越しに肉切り職人の作業するところが見え、職人とお客様との距離がとても近いそう。

柿本さんが持ってきてくれた、豪快な六甲牛のサーロインが登場。まずはカットの仕方を教えてくれます。
ずっと使っている柿本さんの包丁は、何十年もきれいに研がれて刃がとても短くなっていました。大きな刃は塊肉を、小さな刃は細かい脂や筋を処理するのに使うといいます。

すっと包丁をいれてきれいな断面を見せ、切りたてのお肉は少し黒っぽく、5~10分すると酸化してすこしずつ赤みをおびてくると教えてくれました。まずはおおきな筋をはずすため、滑らかに包丁を動かします。サーロインの一部であるフクシン部分もきれいに、そしてスムーズにとりわけていきます。

お店でサーロインのステーキ肉を買うときは、脂身の部分がきれいに成型されたお肉を選ぶのがおすすめだそう。

きれいに成型したからこそ生まれる筋や脂身。「贅沢ですが、レストランでステーキをだすときは筋も脂もすべてカットします。けれどこれらは、おいしいソースになったりパスタの具材になったりしていきます。」と、濱部シェフ。

「柿本さんは、肉の切り方がすごく上手です。柿本さんから買いたいなと、マチマルシェ御影店に足繁く通ってるんです。」と付け加えて話してくれました。

ステーキ肉を扱うコツは?と柿本さんに尋ねると、まずは常温に戻すことだそう。「わたしたちも寒い季節、急に熱いお風呂に入ると驚くでしょう、肉もびっくりしてしまうんです」とチャーミングな例えも。それから、肉を焼いた脂は捨てずに、ソースに活用してみましょう、と教えてくれました。

柿本さんから六甲牛のサーロインの塊肉とともに、濱部シェフにバトンがわたり『料理人トーク』のはじまりです。

神戸の北野で、薪をつかった料理を提供している濱部シェフ。クールな印象だが、たまにみせる笑顔が場の雰囲気を柔らかくしてくれます。手と体はつねにテキパキと動いており、頭がフル回転していることが伺えます。
家庭では常温に戻してから焼くのがおすすめだが、薪はちょっと特殊な焼き方をするので今から焼いていきます、と軽快なトークで調理をしながら話はじめました。

「六甲牛は、和牛ほど脂のさしがはいっていない、赤身とのバランスがとてもいい肉です。和牛ほど脂が多くないから表面が焦げにくく、わりとしっかり焼けるのでぶ厚めで焼くのがおすすめです。」

肉を薪火におくと、じわーと煙とともに香りがレストランに広がります。「もう、おいしいですね〜」と秋山さん。
和牛単体だと脂を焼いている匂いが強いが、六甲牛は肉らしいにおいがあると肉を焼きながら濱部シェフは話します。

グリルで焼く時、炭火だと脂が落ちると火があがってしまうが、薪は水分を含んでいるので脂が落ちても火があがることがなく、過度に焦がさないのでずっと焼くことができるのだそう。その間に、表面がメイラード反応を起こして、きれいに焼き目がついていきます。
家庭で六甲牛を焼く場合も、脂をひかず、お肉からでる脂で焼くのがおすすめだそう。脂をいれると赤身の味わいが感じにくくなってしまうのだそう。

実は濱部シェフ、うしぼくの堆肥で野菜を育てるfresco,frescoの丸山さんと、なちゅらすふぁーむの石野さんを事前に訪ねてくれていました。

畑では、堆肥のにおいが全然せず、すごく農地に馴染んでいるように思いました、とシェフ。普段からたくさんの生産者を訪ねているシェフは、農家さんとの会話を通して今回どのように料理をするか考えてくれていたようです。

今回は、堆肥から生まれた野菜と肉で、メインで使わなかった牛の筋や野菜の端材部分を一緒に煮込んでつなげ、ソースを作ってくれていました。
また、肉のサイドにはさつまいもが。シェフいわく、六甲牛はとても旨味が強いので、同じく旨味の強い根菜類との相性が良いそうです。

「完成!」
パチパチパチと拍手が起こります。

そして最後は実食。
「普段、牛を育ててくれている生産者さんに食べてもらえるの、すごく嬉しいです!」と濱部シェフ。

肉をひとくち食べて3人から笑みがこぼれました。おいしいものを囲んでつながる瞬間です。

堆肥という一見レストランとは遠い存在のように思えるもの。けれど、それは牛たちから必ず生まれるもののひとつであり、それによって育まれる土、そして食材があります。牛たちの恩恵はいろんな形で結びついていることを改めて感じた時間となりました。