地域循環への想い

顔がみえる関係性を大切に
気持ちよく廻っていく

地域循環を大切にするわけ

1968(昭和43)年に神戸市西区櫨谷(はせたに)地区で生まれた、神戸牛牧場(以下、うしぼく)。まだまだ肉食文化が根付いていなかった頃に、子どもたちが継ぎたいと思える地元の産業をつくろうと、農家6軒が協力しあって約11ヘクタール(甲子園球場の約3個分)の広大な敷地で肥育牧場をつくりました。そんな背景から、設立当初から地域とどう連携できるか、どんな貢献ができるか、を大切に活動を続けてきました。

また、昨今の世界情勢や日本の食料自給率問題からも、海外資材に頼りすぎることなく自分たちの周りにあるものを活かした、地に足のついた基礎体力を作ることの大切さを改めて感じています。

派手ではないかもしれないけれど、大切にしていきたい地元の景色や人とのつながり。それらを次の世代につないでいくためにも、地域循環の輪を少しずつ広げていっています。




仔牛たちを迎えるのも、できるだけ近くから

肥育牧場であるうしぼくでは、生後半年〜9ヶ月程度の仔牛を迎えて肥育を行います。かつて、うしぼくで最も多く育てていた六甲牛は、仔牛をオーストラリアから輸入していました。

けれど、世界情勢の悪化からどんどん価格は高騰する一方。このままでは、地元の食卓にリーズナブルな肉を届けたいという想いも叶わなくなってしまう。育てている4,500頭近くのうち、6割程度が六甲牛だったうしぼくでしたが、六甲牛の飼育を辞めることを決断。仔牛は、すべて国内、そしてできるだけ近くから迎え入れる方針に転換しました。

また、2023年からは仔牛を自分たちで育てる繁殖事業にも挑戦。地元神戸が誇る神戸ビーフとなる但馬牛の母牛を迎え、牛飼いスタッフたちが見守るなか仔牛の出産を成功させることができました。繁殖についてはまだまだこれからですが、一歩ずつ。外からの資源にできるだけ頼らず、自分たちでできることを少しずつ増やしていこうと模索する日々です。


牛たちの食べもので、地域とつながる

神戸市西区櫨谷に位置するうしぼくでは、六甲山系のミネラル豊富なおいしい水が流れついてきます。地下120mの井戸を掘って汲み上げる地下水を、牛たちが毎日たっぷり飲むことができる環境をつくっています。

また、牛たちの食べるものもできるだけ地域とのつながりを大切に選んだり、配合したりしています。なかでも大切にしているのが、地元農家が育てる飼料米や、地元酒蔵メーカーから生まれる酒粕やサケ炭(清酒製造の過程で出てくる活性炭をアップサイクルした飼料)など、地域循環していくもの。

美しい水源のある神戸市西区櫨谷は、稲作農家も健在。牛1頭が食べる飼料は毎日約10キロ、牧場にいる4,500頭もの牛たちの飼料の総量は、1日40トンにも及ぶため、できるだけ大量に仕入れられる外国産の飼料のほうが効率的なのですが、少量でも地元農家が育てる飼料米をつかうことを大切にしています。米の消費量がどんどんさがり、日本の食料自給率も低下するなか、ほんの少しでも地元米農家を応援する一手になれば、という想いからです。

それに、収穫して間もない地元農家の稲藁は、海外産と比べて圧倒的に香り高く、色味も鮮やか。きっと牛たちのからだにも良いことを思わせてくれる地域の恩恵のひとつなのです。

地元酒蔵メーカーから生まれる酒粕やサケ炭は、食品ロス軽減の一歩になるだけでなく、牛たちのからだにもいい。発酵飼料には、消化促進や下痢改善、ゲップ軽減などの効果があるうえに、配合することで嗜好性が高くなり、飼料の食いつきが良くなるのも魅力的なところです。

また、牛のゲップは地球温暖化の原因の一つとも指摘されていますが、活性炭がゲップを抑制することが期待できる(注1)ことも分かっており、牛たちだけでなく環境にもやさしい飼料なのです。

また、サケ炭は糞の匂いの軽減にも作用することが証明されており(注2)、神戸市郊外にある神戸牛牧場の近隣住民環境への負担を軽減することを期待させてくれます。神戸市内で4,500頭もの牛たちを育てる牧場として、地元神戸と長くつきあっていくためにも大切な飼料のひとつだと確信しています。

(注1.2)…サケ炭による効果効能…https://www.hakutsuru.co.jp/corporate/news/detail/20221208102215.html




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牛たちから生まれる堆肥は、地元の土壌へ還す

毎日10キロもの飼料を食べる牛ですから、糞尿の量もとても多い。4,500頭もの牛たちのたくさんの糞尿の処理や再利用のために、創立当初から少しずつ堆肥化に取り組み、46年前から本格的に設備や機材等の環境を整備。今では、年間8,000トン以上の堆肥を作っています。

うしぼくの堆肥は、適切に撹拌し水分調整を繰り返し行いながら、3〜4カ月程度の時間をかけて作ります。8,000トン以上もの堆肥づくりのためにスタッフ4名を配置し、牛を育てることと同様に、堆肥づくりにも力をいれて活動を続けています。

堆肥分析によると葉菜類の植物の生育に必要とされる窒素の含有率が乾物中において2.779%と比較的良いとの評価を得る(注3)ことができ、令和4年には『兵庫県堆きゅう肥共励会』の優秀賞を受賞することができました。

(注3)…堆肥分析結果報告書

また、堆肥づくりだけでなく、要望がある近隣農家への配送業務も行います。安心して良質な堆肥を使っていただけるように、できるだけリーズナブルな価格で提供することを心がけ、神戸市内のみならず市外にも年間600件程度の農家や市民農園などが土作りのために活用してくれています。

うしぼくの堆肥が、地域の米や野菜、果物を育てる糧になる。少しずつですが、そんな輪を広げていくことを大切にするべく、近隣農家とともに米の生産もはじめています。これらは牛の飼料米として活用し、2022年度の飼料としての活用量は112トンで、昨対比119%。これからも少しずつ近隣農家とともに生産量を増やしていきながら、地域資源循環を大切にしていきたいと考えています。

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牛たちの恩恵は、子どもたちの学びへと

未来に続く地域循環であるために、うしぼくでは次世代の子どもたちへの学びの場づくりや情報発信も大切にしています。

牛たちへの配慮を大切にしながら、定期的に子どもたちに牧場に来てもらう『うしぼく牧場ツアー』を開催。地元西区櫨谷にある小学校の子どもたちの授業の一環で牧場を見てもらったこともありました。牧場だけでなく、うしぼくが運営する精肉店で肉切り職人の仕事を間近に見る機会もありました。



市内の幼稚園やレストランなどに出向いて、出張授業を行うことも。お肉が大好きな子どもたちも、牛の生態や特徴に触れる機会はなかなかないもの。牛飼いや肉切り職人などうしぼくチームが出向いて、クイズ形式で牛のことを楽しみながら学ぶ機会をつくっています。


また、『うしぼく通信』と題し、年に3〜4回季刊誌を発行。なかには、牛のいろんなうんちくを学べる漫画コーナー(=うしんちく)が毎号登場。意外と知らない牛のあんなことこんなことを子どもたちにも楽しく学んでもらえればと、毎号チームでネタを考えながら制作しています。

地元神戸を軸足に、顔の見える間柄で地域循環していくことを大切にしながら、これからも「神戸から、牛とある暮らし。」を合言葉に、牛たちの様々な恩恵を届けていきたいと思います。