うしぼく通信 vol.5 編集後記

うしぼく通信編集チームによる、編集後記。うしぼく通信制作の裏側に生まれた、誌面には残らない小さいな気づきや温度のあるあれこれ。神戸市内という消費地と近い場所で約4,500頭もの牛たちを育てる牧場だからこそ提案できる、牛とともにある暮らし。うしぼく通信の制作を重ねる度に見えてくる、今の神戸牛牧場と牛たちとのあり方をつづります。


早朝4時からはじまった撮影現場

うしぼく通信リニューアル号の制作にあたり、牧場を撮影したのは10月の初旬。早朝4時に撮影チームと三宮で合流し、車で約30分。まだあたりが真っ暗な(鍵の解錠さえされていない)牧場の入り口で、洋三さん(池内社長)に鍵をあけていただき牧場の中へ。薄暗いなかに無数の生き物たちの気配を感じて、ちょっとぞくぞくした撮影のはじまり。

神戸牛牧場と関わらせていただくまで、神戸に生まれ神戸に育ち、肉を食べてすくすくと育ってきたけれど、それを支えてくれている約4,500頭もの牛たちが、こんなに近くにいることを恥ずかしながら知りませんでした。お肉はどこからかやってきて、いつのまにか食卓に並んでいる。そんな生活を当たり前に過ごしていたことを反省し、改めて撮影に向けて気合がはいり背筋が伸びました。


当たり前だけれど、みんな違う

神戸牛牧場では4品種の牛たちを育てているのですが、4,500頭を超える牛たちを前にすると、最初はどれも見分けがつきませんでした。

けれど、時間がたつうちに「あそこの牛たち井戸端会議してるみたい」「あの牛、水の飲み方がきれいだなぁ」「あれ、あいつちょっと今つまづいた、どんくさいなぁ」と、少しずつ牛たち一頭一頭の動きが気になってきます。もうしばらくすると、品種ごとの違いもわかるようになり、その先には品種のなかの一頭一頭の顔つきや仕草の違いも分かる(分かったような気になる)ように。そうなると、700kgを超える大きな牛が、もう当たり前ですが、自分と同じ生き物なんだと改めて感じます。それなのに、私たちと違って胃が4つあることを思い出し、神秘的な気持ちさえ芽生えてきていました。

生き物の同士として牛たちとの距離がぐっと近くなったように感じた時、そこにいる牛たちは経済動物で約30ヶ月をここで過ごせば出荷されて肉となっていくことを改めて思い出します。どこか考えないようにしよう、とブレーキをかけていた自分に気づき、この気持ちはなんだろう、と考えました。


生き物たちと、どう向き合うか

むかしむかしは、狩りをして生き物たちの命をいただいていたけれど、そのなかでは命はもっと平等で、誰かの糧になることもあれば、誰かを糧にすることもあったと思います。糧にならずに逃げきるという努力枠がどの生き物たちにもあったんです。今、そうではないこの状況をどこか後ろめたく思ったのかもしれません。

とは言っても、お肉は元気がないなぁと思う時に食べたくなる大好きなものですし、当然牧場がなくなればいいとも思いません。撮影の合間に牧場事務所に戻り机に目をやると、そこに飼育員の保苅さんの絵(あらかじめ牛の話を聞かせてほしいと依頼していたら、牛の様々な解説を絵にして描いてくれていました)がありました。

“牛は、人間に食べられない繊維質(草など)を食べて、人間が食べられるもの(乳肉や乳)に変える、これぞ牛の真骨頂、すごいところ、素晴らしいところ”。保苅さんは生き物として、牛を尊敬していました。素敵な飼育員がいる神戸牛牧場と仕事ができていることを嬉しく思ったと同時に、そんな保苅さんに牛たちをかわいそうだと思うことはありますか、と聞いてみると、「それはありません。牛たちと向き合い一緒にいる間はできる限りのことをするだけです」と。


それ以上でもそれ以下でもないんだ、と思いました。自分にできることを、きちんとする。たいしたことはできないかもしれないけれど、身の丈にあった自分の力量を知ってそれを怠らないことが大切なのかもしれない、そう思わせてくれた実践者がそこにいました。

アニマルウェルフェアって、なんだろう

保苅さんをはじめ神戸牛牧場のみなさんは、牛たちとゆっくり向き合ってきた結果、アニマルウェルフェアの観点でみる厳しい規準も満たした牧場として、海外から牛たちを輸入することができています。いま、世界が大切にしているアニマルウェルフェアの考え方は、神戸牛牧場にしっかり根付いていました。けれど、みなさんは口を揃えて「特別なことなはっていない、できることをやっているだけ」と言いました。



アニマルウェルフェアとは、を調べてみるとあらゆる規準やたくさんのルールが書かれています。けれど、大切なことは“牛たちを私たち人間と同じ生き物として尊敬し、無理せず自分にできることをする”ことではないでしょうか。

まず、私にできることはいただきますの前に牛たちの顔を浮かべてみること、それからおいしく料理して、それを残さず食べること。アニマルウェルフェアの実践は、牧場にいなくてもできるものかもしれないと思えました。

 

筆:うしぼく通信 企画編集 株式会社KUUMA 濱部玲美

 



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