うしぼく通信vol.11 編集後記

うしぼく通信編集チームによる、編集後記。うしぼく通信制作の裏側に生まれた、誌面には残らない小さな気づきや温度のあるあれこれ。神戸市内という消費地と近い場所で約4,500頭もの牛たちを育てる牧場だからこそ提案できる、牛とともにある暮らし。うしぼく通信の制作を重ねる度に見えてくる、今の神戸牛牧場と牛たちとのあり方をつづります。


暮らしの中にある、小さな楽しみ

牛飼いや農家さんなど、“生業”としての牛とある暮らしを紹介してきた『うしぼく通信』。vol.11で注目したのは、よりプライベートな“生活”のなかにある牛とある暮らしです。「台所と、家庭菜園と、リビングと、牛」と題し、神戸牛牧場のお肉・堆肥・『うしぼく通信』が、ご家庭でどのように取り入れられているのかを取材させていただきました。それぞれのお家の牛とある暮らしを覗くことは、うしぼくスタッフや編集チームにとって感無量のひととき。2日間にわたり、じんわりと温かい気持ちに包まれた取材でした。

生活のあり方は三者三様でありながらも、暮らしの中にある小さな楽しみを大切にされている様子が印象的でした。今津家は、食べたくなったらゲリラ的に焼き肉を楽しんだり、イベント時にはお楽しみのローストビーフを味わったり。由井家は、徒歩5分圏内にある貸農園で野菜を育て、ご褒美のおやつタイムもめいっぱい楽しむ。池内社長と家族ぐるみのお付き合いのある錦織家は、『うしぼく通信』を手に取り、みんなで恒例の「池内パパさん探し」。日常の些細なワンシーンですが、こうした身近な生活のなかにあるちょっとした楽しみの大切さを改めて感じています。

コロナ禍のなか、「この先どうなっていくのだろうか」という空気感に包まれている、昨今。そんな中、生活にハリをもたらしてくれたり気持ちを上向きにしてくれたりするものが、“暮らしの中にある、小さな楽しみ”だと思うのです。遠い先の未来に大きな目標を掲げたり、成し遂げたい成果を設定してみたり、ある種の“大きな楽しみ”ももちろん大切です。一方で、「近所に気持ちのよい散歩道があること」や「疲れた時に行きたい銭湯があること」のような“小さな楽しみ”が、自分をご機嫌にしてくれたりもします。たいそうなことをしなくとも、日々の生活は身近なところから楽しくできる。そんなことを改めて感じた取材となりました。

ただただ楽しいから、やる

また、今号では「牛(ウシ)トーク」ならぬ「家(ウチ)トーク」と題し、牛飼いである保苅さんと秋山さんにも取材を実施。生業として牛と接しているお二人の、プライベートにおける牛との接点をお聞きしました。保苅さんは牛の堆肥で野菜を育て、秋山さんは牛革を含むレザー小物を愛用。お二人とも、受動的ではなく、自ら選び取ってその生活を楽しんでいる様子が伺えました。

その中で印象的だったのが「ただただ楽しいからやってます」という保苅さんの言葉。野菜を育てることがただ楽しくて4年も続けられていることが、保苅さんの言葉の節々から感じられました。

昨今は、誰でも簡単に発信し他者からの反応や評価を得ることが容易な時代です。良い面もたくさんある一方で「評価されないことはやらない」という思考になりやすい側面もあるかもしれません。そうすると「ただただ、自分自身が楽しいからやる」という行動がとりにくくなってしまいます。しかし、そこに他者の評価がなくとも、自作の漫画を書いてみたり、道ばたの植物を採取してみたり、お気に入りの喫茶店を探してみたりしていいはずです。vol11の制作期間にたまたま筆者が考えていたことと、保苅さんのこの言葉が、ビビビっとつながった瞬間でした。

“生活”をテーマに取り上げた今号でしたが「自分たちの生活は、自分たちの手で楽しくしていこう」という気概をどの人からもじんわりと感じました。そんな方々の生活に神戸牛牧場が寄り添っていることを目の当たりにし、うしぼく愛がまた一段と深まった制作でした。

筆:うしぼく通信 企画編集 株式会社KUUMA 木村有希


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