うしぼく通信 vol.15 編集後記

うしぼく通信編集チームによる、編集後記。うしぼく通信制作の裏側に生まれた、誌面には残らない小さな気づきや温度のあるあれこれ。神戸市内という消費地と近い場所で約4,500頭もの牛たちを育てる牧場だからこそ提案できる、牛とともにある暮らし。うしぼく通信の制作を重ねる度に見えてくる、今の神戸牛牧場と牛たちとのあり方をつづります。


簡単そうで難しい、あるものを生かすということ

牛からはじまる循環に力を入れるうしぼくで新たに始まった、レザープロダクトの制作。vol.15では、牛革を入り口に“あるものを生かす”という価値観や生き方について掘り下げました。大量生産・大量消費の構造が限界を迎えているいま、今あるものを生かす視点は今後重要な視点になるはず。そんな想いのもと、神戸を中心に全国各地の廃屋改修に取り組む西村周治さんと、うしぼくのレザープロダクト制作を手がける島本翔太さんと共に考えました。

取材を通じて感じたことは、あるものを生かすことは一見簡単なようでいて難しいということ。第一に、物の機能にとらわれない、視点や発想の柔軟さが必要だと感じます。取材の帰り道、西村さんの事務所を通りかかった際に、電子レンジで作られた郵便ポストをみた時のこと。これは、電子レンジ=食品や料理を温めるためのもの、という本来目的とされている機能にとらわれず、開閉式で物を収容できる箱型の形状そのものに注目することで初めて、郵便ポストとして活用する発想が生まれます。その文脈では、まだ機能を知らない物もある子どもたちと一緒に考えることで、豊かな発想であるものの生かし方を考えられるかもしれません。

さらに、あるものを生かす道中には、時間や忍耐力も必要です。欲しいものをネットで購入して即日で届くサービスもあるなか、手元にあるもので工夫するのはある種遠回り。時間にゆとりをもって取り組んだり、誰かと一緒に取り組んだりするなど、そのプロセスを楽しむための環境づくりも一つの技術だと感じました。

一方で、そんな回り道にこそ、その人らしさが宿るということも同時に感じます。西村さんは、廃屋改修をする際の材料として、簡単に購入できる工業製品ではなく、自然の中にあるものや廃材とじっくり向き合い、生かし方を考えるといいます。また、島本さんは、作ったものが長く大切に使ってもらえるものになるよう、生地の劣化に繋がりやすいステッチ(レザーの縫い目)をなくす方法でプロダクトを制作しています。改修された空き家や、革製エプロンは世の中にたくさんあるけれど、どんなプロセスで作ったかが、そのプロジェクトや制作物の個性を引き立たせ、使う人の愛着を育てることにもつながるように感じました。

お二人の話から、あるものを生かすためには発想力と忍耐力の点で鍛錬が必要なことも見えてきました。まずは、すぐに“購入”を選ばず、一度立ち止まって「手元にあるもので代替できないか?」と問いかける習慣から始めたいと感じました。

他者と出会うことで生まれる、生かす視点

西村さんや島本さんの話を伺うにつれ、自分自身もあるものを生かして何かできることはないものかと、動き出したい想いが沸々と湧いてきました。とはいえ、何から手をつけたらいいかすぐにはわかりません。そんな気持ちへのヒントになりそうだと感じたのが、神戸牛牧場の池内社長が西村さんにある相談を持ちかけた時のこと。地域の小学校で牛を飼う取り組みについて、西村さんに相談したところ、小学校の空き教室を牛舎として使うアイデアが生まれました。

この一連の会話から、ある物を生かす視点は、他者と出会って初めて見えてくるケースもあるのだと感じました。「地域の小学校で牛を飼いたい!」という声が出てこない限り、小学校の空き教室を牛舎として利用するなんていう発想は生まれなかったはず。もしかすると、空き教室を別の取り組みに活用する発想自体生まれなかったかもしれません。

以前、場づくりに関する話題で、こんな話を聞いたことがあります。
「ビジネスとは違い、お金が報酬とならない場づくりでは、そこに集まったひと・そこにあるもので何ができるかを考えます。初めは何をしたらいいか分からない人も、自分と違った得意や興味を持つ他者と出会うことで『そういうことなら、私はこんなことで協力できるよ』と、自ずと関わり方が見えてくるんです」。

先ほどの池内さんと西村さんの会話の中には、この場づくりに近い視点があるように感じました。自分一人だけで考えずとも、誰かのやりたいこととかけ算することで、化学反応のようにあるものの生かし方が見つかることもありそうです。

牛の恩恵から生まれたプロダクトを起点に、これからの働き方や生活を楽しむための知恵や態度を考えさせてもらった今号でした。

 

筆:うしぼく通信 企画編集 株式会社KUUMA 木村有希


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