うしぼく通信 vol.10 編集後記

うしぼく通信編集チームによる、編集後記。うしぼく通信制作の裏側に生まれた、誌面には残らない小さいな気づきや温度のあるあれこれ。神戸市内という消費地と近い場所で約4,500頭もの牛たちを育てる牧場だからこそ提案できる、牛とともにある暮らし。うしぼく通信の制作を重ねる度に見えてくる、今の神戸牛牧場と牛たちとのあり方をつづります。


正解の提示ではなく、考えるためのきっかけを

2018年から始まった『うしぼく通信』。節目となるVOL.10が無事発刊されました。VOL.10のテーマは、“牛と命”。『うしぼく通信VOL.9』にて、『うしぼく牧場ツアー』に参加したある子からこんな質問が。「牧場にいる牛さんは、どうやってお肉になるの?」。子どもたちに“命をいただくこと”をどう伝えるか、新たな問いが生まれます。“神戸から、牛とある暮らし。”を掲げ、神戸のまちと牛との様々な接続点を作る神戸牛牧場にとって、これは大切な問題。そこで、神戸牛牧場の牛飼いと肉職人を交え、“牛と命”をテーマに座談会を実施しました。

見えてきたことは、“伝え方に正解はない”ということ。座談会を通して、うしぼくスタッフはそれぞれの実体験を交えつつ、自分の考えを言葉にしてくれました。屠畜場で見たことをストレートに伝えるという、牛飼いの秋山さん。肉牛の一生を大まかに伝えるという、肉職人の柿本さん。牛の命について描かれた絵本を渡した、牛飼いの斎藤さん。「命あるものは全て、他の命をいただいて生きている」という事実はあれど、その事実の伝え方は人それぞれ。大切なことは、子どもたちが自分で考えるための“きっかけ”を投げかけること。絵本や映画を通して考えることもできれば、何気ない日常のお散歩や買い物を通して考えることもできるはず。好奇心が湧く学びの入り口さえ見つければ、子どもたちは自ずと学んでいくのではないでしょうか。

 

きっかけを投げかけるということは、命のテーマに限らず、子どもたちと対話する上で重要な姿勢なのかもしれません。一つの問いに一つの答えがあるテストとは異なり、世の中には答えが一つではない問いが多く存在します。だからこそ、大人と子どもが同じ目線に立ち、答えのない問いについて一緒に考えてみることが大切なのではないか。うしぼくスタッフとの座談会を通して、そんなことを考えさせられました。

好奇心が生まれる場所

VOL.10のテーマである“牛と命”は、牧場で牛を初めて見た子どもの疑問をきっかけに生まれました。その疑問は、牛の息づかいを牧場で目の当たりにしたからこそ生まれたはず。そんな、自分にとって“未知なるもの”との出会いこそ、好奇心を掻き立て学びを加速させるということを、改めて実感しています。

企画や編集を生業とする身として、様々なテーマについて調査をしたりヒアリングをしたりする機会が多くあります。私たちが関わらせて頂く人たちは、神戸牛牧場をはじめ、農家さんや料理人、大学の先生、森づくりに携わる人、などなど。多種多様な分野の方と話すたび、いかに自分の知らないことが世の中に溢れているかを目の当たりにします。そして、日常的に触れる物事の中にも、未知なるものはそこらじゅうに転がっている。「知らない、だから知りたい!」という気持ちこそ、学びの第一歩。未知なるものとの出会いを愉しみ、スポンジのようにぎゅっと吸収できる状態を作っておく。その心意気こそが、遊ぶように学ぶコツなのではないか。そんなことを思い返させてくれた『うしぼく通信VOL.10』になりました。

筆:うしぼく通信 企画編集 株式会社KUUMA 木村有希


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