うしぼく通信 vol.6 編集後記

うしぼく通信編集チームによる、編集後記。うしぼく通信制作の裏側に生まれた、誌面には残らない小さいな気づきや温度のあるあれこれ。神戸市内という消費地と近い場所で約4,500頭もの牛たちを育てる牧場だからこそ提案できる、牛とともにある暮らし。うしぼく通信の制作を重ねる度に見えてくる、今の神戸牛牧場と牛たちとのあり方をつづります。


育てても、売ってもない人間にできること

まだ寒い2020年の幕開けとともに始まった、うしぼく通信vol.6の編集会議。今号で焦点をあてたのは、神戸牛牧場(以下うしぼく)の主力品種である六甲牛です。

約4,500頭を育てるうしぼくでは、その大半の約2,600頭が六甲牛。オーストラリア生まれのアンガス種と日本が誇る黒毛和種のかけ合わせで、昨今ブームの赤身のおいしさと脂身の旨さのバランスがちょうどよく、かつ和牛と比べてリーズナブルな価格とあって、市場から高く評価されている品種です。個人的にも脂身がしんどくなってきた年齢なので、同世代の友だちが集まるタイミングとか、祖父母と集まるタイミングなんかでは、六甲牛を大人買いして、ちょっとうんちくなんかを語りながら味わう、出会えてよかった食卓の武器的存在。
まだ日本で育てている牧場はそう多くなく、その魅力は味わいをストレートに語るだけでも十分に伝わるのですが、“神戸から、牛とある暮らし。”を掲げる肥育牧場として、味以外で牛のその魅力を伝えることができないか。それが生産者でも肉屋でもない、編集者として媒体を作る自分たちにできることなのだと、めらっと使命感に火をつけ、六甲牛の種のかけあわせの議論が始まりました。

種のかけあわせは、善か悪か

編集者あるあるで、編集会議はよく脱線します(それが楽しく、大切なのですが)。種のかけあわせの話から、その膨大な歴史と生き物たちの進化の軌跡を学び、自分たちのちっぽけな存在に気付かされながら、はたまた六甲牛がここにあることの奇跡とその感謝から鼻息が荒くなり、そうこうしているうちに品種改良は人間の利己的な行動なのでは、と議論が及びます。一部の議論は、媒体を作るためというより思想を交わす趣味の領域に及んでしまっているようにも思いながら、球を投げあいます。

品種改良は利己的なものなのかについては、様々な側面を見ながら、しばらく悶々と悩みました。とある友人が、それは人間に限った話ではないと意見をくれ、ほっとしたことを覚えています。病気に強い品種を作りたい、おいしいものを食べたいと模索してきたように、様々な生き物がもっと長生きしたい、もっとたくさんの栄養を摂りたいと進化してきたのです。すべての生き物が利己的で、人間もいち生物として模索しているに過ぎない。そう咀嚼しました。そうなると、六甲牛の種のかけあわせが生まれるにあたって、それに関わる人間を含めたすべての生き物たちがどのように模索してここに至ったのか、その奔走歴を知りたくてうずうず。うしぼく創業当時を知る相談役と、創業者の息子であり現在四代目社長の洋三さん(池内社長)へ取材させていただくこととなりました。

汗ばんだ記憶の継承

創業当時のお話は何度かお聞かせいただいていましたが、何度聞いても好きです。情景が浮かんで、わくわくします。もともと農家だった男たちが創業者の自宅に集まり、家族を想い地元を想い、自分たちの家や土地を担保に畜産業へ挑戦しようと生まれた、うしぼく。その大きな決断を支えたお母さんたち。きっと、集まる男たちの議論に耳を傾けながら、時にお茶やお酒を運んだり食事を作ったりして、少しそわそわしながらその大きな決断を支えたのでしょう。そして、そこに聞き耳をたてていた子どもたちは、大人たちが目を輝かせてあぁでもない、こぅでもないと話す姿に、どきどきわくわくしていたことでしょう。タイムスリップできるならその場にいって見てみたい。

創業当時、高校生だった相談役もその時の話になると、少し子どもにかえったようなにやにや顔をしているように見えます。会社概要には載らない、うしぼくの歴史。永遠にその情景を語れる人はいないからこそ、きらきら光るのかもしれません。

「こうやって昔の話を知ってもらうのは、従業員にとってもいいと思ってるんです」と、相談役。この媒体が持つ嬉しい側面を感じることもできました。創業当時から六甲牛がどのように生まれたか、その奔走の軌跡を何度も取材を重ねてうしぼく通信vol.6は生まれました。

舌以外で感じる、おいしい

おいしいなぁと思う感覚もとても大事で幸せです。けれど、そのおいしいは舌だけで感じるものではありません。六甲牛という種のかけあわせがどのように生まれたのかを探っていくと、人間たちの苦悩のドラマや、そう思い通りにはいかせてくれない生き物たちの強さがありました。五感でそれを感じ、お肉を選ぶモノサシが少しずつ変わっていく。そんなことが起こればいいなぁと思えた制作過程でした。

筆:うしぼく通信 企画編集 株式会社KUUMA 濱部玲美

 



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