うしぼく通信vol.19 編集後記

うしぼく通信 編集チーム(株式会社KUUMA)による、編集後記。うしぼく通信制作の裏側に生まれた、誌面には残らない小さな気づきや温度のあるあれこれ。神戸市内という消費地と近い場所で約4,000頭もの牛たちを育てる牧場だからこそ提案できる、牛とともにある暮らし。うしぼく通信の制作を重ねる度に見えてくる、今の神戸牛牧場と牛たちとのあり方をつづります。


いま、ローカルをもう一度見つめる

 先行きは不確実で複雑性を帯びた世界情勢のなか、円安が進み、海外飼料に頼り続けていては、肉という日常食が当たり前に届かなくなるかもしれない。そんな危機感から、うしぼくでは海外からの子牛の輸入を終え、できる限り国内、そして地域に近い場所から牛を迎え入れる体制へと移行してきました。また、飼料づくりにも地域資源を取り入れるなど、“ローカル”を意識した営みを一歩ずつ積み重ねています。そうした背景を踏まえ、今号のテーマは「ローカリズム」。
農業を土台に57年の歩みを重ねてきたうしぼくの視点から、身近な暮らしや地域に根ざした営みを見つめ、ローカルに生きるということを改めて考えました。

 レボリューションの原義は「革命」ではなく「公転」。
グローバリゼーションからローカリゼーションへと、二極化していくのではなく、螺旋を描きながら積み重なっていく流れの中に、いま私たちはいます。牛を育てる営みもまた、その螺旋の一部として、この土地・兵庫、そして神戸で刻まれてきた軌跡のひとつ。
 今回の特集は、ローカルと強い結びつきをもつ農からみる土地に関わる人々、そして牛の交わりを覗くきっかけになればと思います。

グレーの余白に、ローカルのヒントがある

 地域や小さなコミュニティの中にいると、息苦しさやむず痒さを感じることがある。「本当にそうなんだっけ」と心の中で問いかけた時は、少し引いて見るようにしている。『心を満たす』(うしぼく通信 vol.19の表面の台割)で取材をさせていただいた、元神戸市職員の山田さんが語っていたように、“ネットワークを広げるように身軽にいる”という姿勢は、ローカルで生きるうえでの知恵かもしれない。

 ローカルと聞くと、特定の地域や自分の近くのエリアを指すように思えるけれど、一点を見つめ続けることではなく、少し離れて眺めたり、別の角度から照らしたりすることで、「こんな顔もあったのか」と気づくことがあります。

 ローカルとグローバル、アナログとデジタル、過去と未来。
相反するもののあいだを行き来しながら、その“グレーのバッファーゾーン”にこそ、これからのローカルライフのヒントが潜んでいるのかもしれません。
 地元を面白がるために、人に出会い、違う場所を旅してみる。
そんな潮の満ち引きのように形を変えて動いていく中で、また新しい視点に出会っていけたらと思います。

「勿体ある」つながりの中で、生きていく

 ローカルとは、ただ地元だけに固執することでも、新しいものを拒むことではないと考えます。

 ある建築家が語った「ローカルとは“勿体ある状態”」という言葉。“勿体”とは、すべてが関わり合い、支え合って存在しているという仏教の考えです。地域もまた、生き物も人も、物事も、複雑につながりながら成り立っています。そのつながりに目を向けず、合理的な“遠くの文脈”を目の前の利益のためだけに取り込もうとすれば、せっかくの“勿体ある状態”が途切れてしまうこともある。地域にすでにあるリズムや関係を壊さず、そこに潜む力を生かすことこそ、ローカルの豊かさだと思います。

 うしぼくの営みも、その循環の中にある。農家から稲わらを受け取り、牛を育て、その糞尿を堆肥としてまた畑に返す。その循環が、土地と人の呼吸をつないでいます。まだ気づいていないつながりに、周りを見渡せば出会うことができるかもしれません。「勿体ある状態」に目を向けることは、地域の本質にもう一度向き合うこと。

 不確かな時代、世界から押し寄せる情報の波のなかで、足元の関係や風景を見つめ直すことが、心を落ち着かせる風土になるのかもしれない。ローカリズムとは、いま立つこの地を知り、そのつながりを愉しむことから始まる。そんな想いを込めて、今号を結びます。

筆:うしぼく通信 企画編集 株式会社KUUMA 北田愛

 


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