うしぼく通信vol.17 編集後記

うしぼく通信 編集チームによる、編集後記。うしぼく通信制作の裏側に生まれた、誌面には残らない小さな気づきや温度のあるあれこれ。神戸市内という消費地と近い場所で約4,500頭もの牛たちを育てる牧場だからこそ提案できる、牛とともにある暮らし。うしぼく通信の制作を重ねる度に見えてくる、今の神戸牛牧場と牛たちとのあり方をつづります。


そもそも、継承ってなんだろう。

 うしぼく通信vol.17にあたる『牛と技術と継承と』をテーマにした今号は、神戸牛牧場(以下、うしぼく)の肉切り職人の柿本義史さんへの取材から始まりました。数ミリ単位の肉の切り方が味わいにいかに影響するかを熟知し、その職人気質な技で提供される牛肉は、レストランのシェフも太鼓判を押す。

ゆっくりゆっくり、けれど日々前進するうしぼくには、柿本さんを筆頭に熱い想いを持つ次世代の肉切り職人たちが技術を練磨していました。 うしぼくの大切な資産である肉切り職人の技術を継いでいくために、と考えた時に「どう継承するか?」の方法論ではなく、「そもそも継承とは何か?」から紐解いていくことにしました。

継ぐことって?

 私たちの周りでは、師匠から弟子へ、親から子へ、先輩から後輩へ、と様々な環境でいろんな継ぐという光景を見ることができます。まず初めに型(方法)を習い、何度も繰り返して自分の技術へと習得していく。「何回もやっていれば、技術は身に付く」という言葉を聞いて、型を身につけることだけを目的とした心当たりがあるような気がしました。合理的に型を身に付けるためのバトンを渡していくことだけが継承ではなく、その習得する技術の裏にある思想とともに伝えていくことが大切。そう聞いた時、普段の仕事の中で効率的なノウハウやハウツーを最短ルートで学び、道から外れることなく、出来たことに達成感を覚えた場面もあるのではないか、とはっとさせられました。

 焦って時間にとらわれすぎると、目の前のものに表層的にしか向き合えず、分かっているつもりになっている瞬間もある。そうではなく、物事の周りに紐づくものたちに目を向けて紡いでいく、ということが編集においても大切な学びとなりました。

 編集のリサーチの時に出会った書籍 『継ぐこと・伝えること 茂山あきら(著) – 松本工房』のなかにあった”「継ぐこと」は習ってなぞって、そして自分なりに形を変えて表現していくこと”の言葉を自身の編集の仕事に当てはめると、「習ってなぞる」は上手に文章を書くことで、「自分なりに形を変えて表現する」はうしぼく通信に出会う読者の方が、通信を読んで明日から少し違う視野や感性を楽しめるものを表現したいという思想部分になる、と思えることができました。

自分を出しすぎない、かっこよさ。

 ちなみにですが、お話する時、柿本さんは真っ直ぐ目を合わせて語ります。信念の強さとともに、対人へしっかり伝えようとする敬意を同時に感じさせてくれます。自分の磨いた技術を表現したい訳ではなく、うしぼくの肉切り職人としていただく命を心に受け止め、その命がお客様の喜びにどう繋がるかを考えている柿本さん。堂々とした佇まいながらも、その笑みは暖かさを感じます。

 常に技術と思想を行ったり来たりして練磨しながら、真っ直ぐに熱い想いを言葉にするからこそ、次の世代の肉切り職人からの尊敬や仕事上の信頼が成り立っているんだなぁ、これこそ継承につながっていくんだなと思わさせてもらえる取材現場でした。

天職と思える裏側

 「肉を切ってる時、ぐっとくる。言語化できない感情」と、印象的な言葉をくれた柿本さん。肉切り職人が天職だと言い切った柿本さんは、直感的にそう感じているかもしれません。けれどそれだけでなく、お肉を切る以外に牛のタチ(生きている姿)を見に行ったり、料理に一歩踏み込んだりと、あらゆるところにアンテナを立てて深く学び続けている姿を見せてもらうと、冒頭にある印象的な言葉がでてくる理由とつながるような気がしました。天職とは一方的に舞い降りてくるものではなく、自らの偏愛が天職に導いているのではないかと思わされました。

「今日は、昨日の自分より成長していること」と考える柿本さんは学ぶことに貪欲で、楽しんでいる。シンプルな言葉だけれど、毎日の成長を気にかけることは難しいもの。技術を磨く原動力である思想や学びたいと思う気持ちに向き合えるように、慌てずに着実に進んでいきたいと心を強くしてくれる『うしぼく通信vol.17』になりました。

筆:うしぼく通信 企画編集 株式会社KUUMA 北田愛


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